2011年2月

  今年は何年か振りに真っ当な冬だとほくそ笑んだ。
束の間でした!この数日、衣更着(如月)とは程遠く温暖の日が続く。
  日当たりのいい森の中の其処此処にはイワウチワの緑葉這う地表が見え隠れしている。そんな気候に芽吹いていいものか、否か?戸惑う冬芽の様が可愛くいじらしくもみえる。
  ここ大沼のほとりには、イの一番マルバマンサクの咲く標木があるのだが、3月を待たず蕾がほころび始めた。もっともヤマハンノキの花穂は既に雪山を赤く染めている。

 この逞しき森の植物たちは何も語らず、遠い昔から自然の摂理に身を任せ今を生きて、間違いなく明日も生きてゆく。

  ブナの叛乱
  今年のブナはどんなだろう?
雪上には花芽をいっぱい付けた枝がいたる所に落ちていた。見上げれば頭上高い枝先には膨らんだ花芽がいっぱいだ。いい予感がする…ブナの実クッキーも食べたいし!(ブナの実は油分が多くて美味い)

  思えば2年前の春、花芽がいっぱいだった。
まだ背伸び前のササヤブを小一時間ほど漕いだら身体中が真っ黄色に染まり、お互いの姿を見ては笑い転げた!ブナ花粉だった。

  だからと言って実るとは限らない。その年は梅雨が明けず日照不足で不稔!(そんな不可思議を愛したいのだが…故あって成るのが自然界)地球気象さえも浮かれに浮かれる人間の所作が故なのか…。

  そして去年があの日照り!…思えば如何に人間が自然界とかけ離れた存在か分かろうというもの。そして今、これが2月の気候とはとても思えない。看過しちゃいけない!たかだかの森の実りが、天地を左右する標とも成り得るのだから。

  雪 上 花
  2月から3月、森を歩くのが楽しい!まだまだ透けた木立が光をよく通し、なおさら雪面反射で森の中が明るい。そんな日は森の動物達がはしゃぎ出し真新しい足跡があちこちに出来る。突然消える不思議な足跡に頭をひねり、勝手な想像でお茶をにごすのも愉しい。

  けれどオレにはもっと愉しい事象が待ち受ける。折れ落ちた生木、枯れ枝、風も運ぶ枯葉、姿をとどめない木屑、樹上のコケ片に、地衣のカケラ。使い古した小鳥の巣、時にヤドリギの赤い実が長い糸を引き小枝にぶら下がる一服の絵、水辺にはそれらをとどめた花氷。おまけにワシタカ類がネズミでも捕らえたであろう雪上の羽形まで、全てが愉しい。

  3月から4月になるともっと賑やかだ!冬芽を抱いた芽鱗が役目を終えて残雪を彩る。サクラ、カエデ類の葉芽の鱗片なんぞは下手すりゃ花より美しい。

  運が良ければカツラの小花が雪上を彩る様に会えるかも知れない。マイタケ位じゃ踊らないがコイツを見たら間違いなく踊る!カツラの花は葉芽が開く前に咲き散る深紅の小花だ。

  そんなこんな、冬と春の節目にみる“森のアリバイ”は残雪に美しく映えて、それぞれが森を語るのです。

  モズとネズミ
  1月の始めにこんな光景を見た。
いま正にモズが野ネズミを捕獲し、鋭い爪がもがく獲物をしっかり押え付けている。猛禽類のあの鉤形のくちばしで獲物を懸命に突く…必死に逃れようとネズミがもがく。暴れもがくほどに鮮血が飛び、真っ白い雪が徐々に赤く染まっていく…。

  5mから3mと徐々に近づき、そして2mの間合いでモズがオレを見据えた。黒光る丸目の眼光がじっとオレを刺す(そらさぬオレの目に負けじと)。…懸命にシャッターを切る不審極まりない何者かを追いやるかのような意思の強い眼光。どっこい、オレの方が当然大っきいばかりにどうみたって安全優位。もう少し、と半歩踏み込んだところでモズは獲物から離れ「邪魔者め」と言ったか言わずか近くの小枝に飛び移った。

  「なんとおぞましい光景」と思い起こすに、己のおぞましさも思い知る。それは生きるという事、死ぬるという事の然るべき日常。然るべく美しき日常なのだ。万物、生きて死ぬるは自然の道理なのだ。

  で、(ウサギ年だけど)ネズミの話。オレはネズミ学者じゃないからよく分からないけど、この野ネズミにはハタネズミとヒメネズミがいるらしい。川ネズミもいるけどね!
  人間の尺度でいえば悪いハタネズミと良いヒメネズミが森にいる。
ハタネズミは草食性で大繁殖した日にゃ木をかじるのでどうにも受けが悪い。かたやヒメネズミは木の実や昆虫を食べる。時に害虫となる幼虫、サナギを食うので受けがいい。

 ともにフクロウとかワシ、タカ類が天敵だから地上生活のヒメネズミには分が悪るそう。モズに捕まったのもこいつだもの。姿を見りゃハタネズミと違いちゃんと耳も大きく目も大きく外敵への備えがある。
それにしても、やっぱり人間の尺度は自然の中で孤立する!?