2012年6月

 過日、山奥で一泊して来ました。まだまだ残雪いっぱいのブナ林の中です。もちろん野宿とはいかず簡易テントのお世話になりました。久し振りだったので森の奥へ進む一刻一秒が嬉しくて愉しくてしょうがなかった。
  何年か振りに馴染みの樹や大岩に触れては、懐かしさと興奮で頭が熱っぽくなるほどでした…。

 筋力と引力 

 …この涸れ沢をウロウロしながら遡り、今晩お世話になる野営地に着いた。目印の三百年ブナの根っこに腰を下ろして、また此処に来れた事の感謝を想いながらしばし目を閉じました。(腰を下ろしたこのブナ、二本の株がくっ付き背もたれと肘掛けがある贅沢仕様です)

 さあ現実、残雪に覗く笹を刈り取ります。この笹を寝床(テントの下)に敷き詰めると格段に寝心地がよくなります。しかも冷気を遮り、睡眠中の湿気も防いでくれます。
 次は森の掃除、太いのやら細いのやら枯れ枝を集めて火を取る準備をします。こんなことを終えて、簡単極まりない三角テントを張る。後はこの森で(一人ですが)ワイワイガヤガヤ遊ぶだけです。

 この山中にはこの時期限定の隠れ滝があります。緩やかな斜面上、ガリゴリに固まった雪の下を雪解け水が走るのです!所々空いた穴から靄がでています。あまり見ない風景ですが「一夜を過ごす」とはこういう事です。(有り余る気持ちの余裕と五感のフル稼働は比例します)
 雪上にはケモノ達の足跡はもちろん、森の老廃物(木屑や芽鱗)がいっぱい、そんな森であることのアリバイを見ていると嬉しくなります。

 (この足元に散らかるアリバイを2:3の比率でパーンしながらお気に入りのオブジェを見つけて写す。多分に己のひだを信じて撮るのです。森と仲よく握手しながら身丈で撮るのが「森の時間」の写真です。)

 暮れなずむ頃、現場で調達したカンバの樹皮で火を熾す。焚き火にあたりながら僅かの酒を飲み(イヤ、なめながら)星のない暗闇の森を愉しみました。なんと、メラメラの炎に赤面しながらペールギュントなんぞを口ずさんでいた…我を忘れる(イヤッ覚醒か)この別世界!!

 テントに寝転んでデジカメの小さな画面に一喜一憂しながら、やがて我が瞼、筋力と引力に負けるのでした…。

 酔った贅沢 

 キー!甲高い鳥の一声で目が覚めた。目を擦りながら尖んがった空気に顔を晒し、背伸びと深呼吸をする。
 冷たい朝はお湯を沸かすことから始まる。こんな日は誰が何と言おうと絶対(スコッチを少し垂らすだけ)アイリッシュコーヒーなのです!これ五臓六腑に染み渡り、ホント旨いのだ。下戸にはこれが丁度いい。

 朝食の習慣なぞ無いのですが朝の即席ラーメンをすすり終え…さあ今日も遊び放題。

 残雪の森をあっちこっち走り回り、いまこの瞬間の空気を身体いっぱいに染み付かせる。
 何を隠そう、この空気がオレの「メインデッシュ」です。これが「仕合せ」の風景ですよ!この酔った贅沢に会いに来たのですから。

 …予想どおり春先のそぼ降る雨がやってきた。濡れなきゃ損とばかり着古した(20年物で殆ど効用なしの)ゴアを適当にひるがえし、宴と歓喜と仕合せの森を後にしました。

 ということで今度は初夏の森ん中で皆さんとご一緒しようと思います。
3年続けて森蛍が舞うという仕合せ継続中ですが…さて今年は。